【助産師解説】母乳は出るけど完ミに移行したい…ママの本音とパパにできるサポート

母乳は出てるのに、なんでミルクにしたいの?
やめたいってどういうこと…?
そんなふうに、ママの言葉にびっくりしたり、理由がわからず戸惑った経験はありませんか?
突然「母乳やめようかな」と言われると、どう受け止めたらいいのか悩むパパは少なくありません。
実は、授乳期のママの9割以上が、母乳について何らかの悩みを抱えているという調査結果もあるほど。
「完ミ(完全ミルク)にしたい」という気持ちは、決して特別なものではないんです。
たとえ母乳が出ていたとしても、ママの体力的・精神的な負担や、家庭の事情、仕事復帰のタイミングなど、さまざまな理由でミルクに切り替えたいと思うことがあります。
「自分に何ができるんだろう?」と感じている育児ビギナーのパパにも、きっと役立つはず。
この記事を通して、ママの気持ちを知り、ふたりで協力して育児に向き合う最初の一歩を踏み出してみませんか?

助産師りず
助産師・12年以上の病院勤務経験をもつ3児の母。
4歳と2歳と0歳の子育て経験と助産師での経験を活かし、初心者パパの育児を全力でサポートします。
「母乳は出ているけど、やめたい」と思うママの本音とは?
母乳育児が心と体に与える負担

「母乳で育てるのが自然で一番」とよく言われますが、実は母乳育児は、ママの心と体に大きな負担をかけることもあるんです。
毎日のちょっとしたストレスが積み重なって、限界を感じるママも少なくありません。
たとえば、こんな悩みがあります。
- 授乳の回数が多く、夜中に何度も起きるので体力がもたない
- おっぱいが張って痛くなったり、乳腺炎になったりする
- 赤ちゃんがうまく吸えなくて、思うように授乳が進まない
- ちゃんと飲めているか不安になる
- 授乳はママだけの役割になりがちで、疲れや孤独を感じやすい
こうした悩みは、「母乳が出るかどうか」に関係なく、ママをつらくさせる要因になります。
母乳育児がつらいと感じる理由のひとつに「夜間授乳による寝不足」があります。
夜間授乳で眠すぎてイライラする原因と対処法を詳しくまとめていますので、あわせてご覧ください。
ママが感じる葛藤とプレッシャー
ママたちは、「赤ちゃんのために母乳で頑張らなきゃ」と思いながらも、「もうしんどい……」と限界を感じて、イライラしてしまったり、自分を責めてしまうことがあります。
- 「母乳の方が栄養があるって聞いたし…」
- 「便秘になりにくいらしいし…」
- 「母乳の方が愛情があるって思われそう」
- 「母乳が出るのは恵まれてることだから、やめるのはもったいないのかな…」
- 「やめたいなんて言ったら、夫や義母に“どうして?”って責められそう…」
こうした“周囲の声”や“イメージ”が、ママの本音を言い出しにくくさせていることもあります。
もしかして「D-MER(ディーマー)」かも?
授乳中に、理由もなく急に気分が落ち込んだり、イライラしたり、不快な感覚に襲われた経験があるママもいるかもしれません。
それ、「D-MER(ディーマー)」と呼ばれる生理的な現象の可能性があります。
D-MER(Dysphoric Milk Ejection Reflex)は、日本語では「不快性射乳反射」ともいわれ、母乳が出る直前にホルモンの関係でドーパミン(気分を安定させる脳内物質)が急に減ってしまい、一時的に不快な気持ちになるものです。
このD-MERは、まだあまり知られていないため、ママ自身が「こんなふうに感じるの、自分だけじゃないの?」と悩んでしまうこともあります。
でも、決しておかしいことでも、特別なことでもありません。
【参考資料:Dysphoric milk ejection reflex : A case report ,Alia M H. Int Breastfeed J.2011;6:6.】
完ミを選んでも大丈夫!ミルク育児は“悪”じゃありません
「母乳=愛情」という思い込みにとらわれないで

母乳をやめてミルクに切り替えることに、後ろめたさを感じていませんか?
赤ちゃんにとって本当に大切なのは、「母乳かミルクか」ではなく、ママとパパが穏やかに笑顔でいられること。
その“安心できる環境”こそが、赤ちゃんの健やかな成長にとって一番大事なんです。
- 今の粉ミルクは栄養バランスばっちり
発育に必要な栄養素がしっかり含まれているので、赤ちゃんの成長にも安心です。 - スキンシップや声かけで愛情はちゃんと伝わる
授乳中に目を合わせたり、声をかけたりすることで、ミルクでも十分に愛着は育まれます。 - ママの心と体に余裕ができる
授乳の負担が減ることで、ママに笑顔が増え、その笑顔が赤ちゃんにも安心感を与えてくれます。
「母乳=愛情」というイメージにとらわれず、無理のない育児スタイルを選ぶことが、あなたの家庭にとっていちばんの選択です。
「心のコップ理論」って知っていますか?
これは、私たちの心の状態を“コップ”にたとえる心理学の考え方です。

- コップの中にあるのは「愛情」「安心感」「自信」などの“心のエネルギー”
- このコップが満たされていると、人に優しくしたり、新しいことに挑戦したりできる
- でも、コップが空っぽになると、心に余裕がなくなってしまう
特に育児では、ママやパパ自身のコップを先に満たすことがとても大切です。
心に余裕を持てば、その“あふれた愛情”が自然と赤ちゃんにも注がれていきます。

母乳じゃなくても大丈夫だよ。
ミルクなら僕も手伝えるし、一緒にやっていこう!
そんなパパのひと言が、ママの不安をやわらげてくれることがあります。
ミルク育児は、パパも自然に育児に参加しやすくなるチャンスでもあります。
ママにとって、ひとりで抱え込まなくていいと思えるだけで、気持ちはぐんと軽くなるのです。
ミルク作りや授乳のサポートについてはこちらで解説しています。
母乳をやめることで得られるメリットとは?
「母乳をやめるなんて、赤ちゃんに悪いかも…」
そんなふうに思ってしまうママもいるかもしれません。
でも実は、母乳からミルクに切り替えることで、ママにも家族にもたくさんのメリットがあるんです。
ここでは、よくある“完ミ育児のプラス面”をご紹介します。
① 夜ぐっすり眠れるようになる
ミルク育児に切り替えると、夜間の授乳をパパが担当できるようになります。
その分、ママは少しでもまとまった睡眠を取ることができ、体が楽になります。
生後4ヶ月ごろまでは、赤ちゃんは1〜3時間おきに授乳が必要。
そのたびに抱っこやおむつ替えもあり、ママの睡眠は細切れになりがちです。
でも、休息がしっかり取れれば、日中の育児や家事に前向きに向き合えるようになります。
ママの体が軽くなれば、自然と心にも余裕ができて、家の中も明るい雰囲気に。
② パパも授乳に参加できる!
母乳育児だと、どうしても授乳はママにしかできません。
でも、ミルクならパパも授乳を担当できます。
赤ちゃんを腕に抱いて、ミルクをあげながら目を合わせたり話しかけたり…
この時間は、パパと赤ちゃんの絆を育む大切な時間になります。
育児に積極的に関わることで、「自分もちゃんとパパなんだ」と実感でき、ママからの信頼もぐっと深まります。
③ 食事の制限やストレスから解放される
母乳育児中は、カフェインやアルコールを控えたり、甘いものを我慢したりと、食事にたくさんの制限がかかります。
薬を飲むときも、「赤ちゃんに影響がないかな?」と気をつけないといけませんよね。
でもミルク育児に切り替えれば、こうした心配はぐんと減ります。
ママの食事や生活の自由度が上がり、ストレスも軽くなります。
④ 自分の時間が少しずつ持てるように
授乳をやめると、ママは赤ちゃん中心だった生活から少しずつ自分のペースを取り戻せるようになります。
- 趣味の時間を持つ
- ひとりでちょっとお出かけして気分転換する
- お茶をゆっくり飲む時間をつくる
こうした“小さな自分時間”が、ママの心をふっと軽くし、また育児に向き合う元気をチャージしてくれます。
断乳はどう進める?ママと赤ちゃんにやさしいステップ


ミルクに切り替えたいけど、どうやって母乳をやめていけばいいの?
そんなふうに迷うママはたくさんいます。
ここでは、ママの体にも心にもやさしい断乳の進め方とスケジュールを、4つのステップに分けてご紹介します。
STEP1:まずは夫婦で気持ちを共有しよう
最初に大事なのは、ママが「なぜ完ミにしたいと思ったのか」という気持ちを、パパがしっかり受け止めること。
「赤ちゃんのために母乳じゃないとダメなんじゃ…」という不安やプレッシャーを、ママはひとりで抱えていることも多いんです。
パパはまず、ママの気持ちに寄り添って話を聞いてみてください。
- 何がつらかったのか
- どんなサポートがあると助かるのか
そんなことを否定せずに聞いてあげるだけで、ママの気持ちはぐっと軽くなります。
STEP2:授乳回数を少しずつ減らす
断乳は、急にやめるのではなく、少しずつ授乳の回数を減らしていくのが基本です。
いきなりやめてしまうと、ママの体に大きな負担がかかってしまい、乳腺炎などのトラブルにつながることも。
おっぱいが張ってつらいときは、無理せず授乳や搾乳で圧を抜いてください。
STEP3:寝かしつけの方法を見直す
完全母乳で育てていた場合、「おっぱいで寝かしつける」ことが習慣になっているケースが多いです。
でも、断乳に向けては、少しずつ別の寝かしつけ方法にシフトしていくのがポイント。
- 抱っこしてトントンする
- 部屋を暗くして静かに過ごす
- やさしい音楽を流す
- お気に入りのぬいぐるみを使う
こうした「寝る前のルーティン」を整えることで、赤ちゃんも安心して眠りにつきやすくなります。
パパが寝かしつけを担当するのもおすすめ!
ママが心と体を休める時間にもなりますし、パパにとっては赤ちゃんとの大切なふれあいの時間にもなります。
寝かしつけの基本については、こちらをご覧ください。
STEP4:ママ自身の心と体のケアも忘れずに
断乳後、ママの体はホルモンバランスが変化します。
その影響で、「なんだかイライラする…」「急に泣きたくなる…」ということが起こるのは自然なこと。

だからこそ、パパの一言がとても大切なんです。
パパからのこんな言葉が、ママの心の支えになります
- 「よくがんばってくれてありがとう」
- 「無理しなくていいよ」
- 「何かできることがあれば教えてね」
産後のママは、出産の疲れと育児の大変さで、心も体もふらつきやすい時期。
そんなときに寄り添ってくれる存在がいるだけで、「私はひとりじゃない」と思えるようになります。
「完ミにしたい」と言われたとき、パパができること
ママから「母乳をやめたい」と聞いたとき、
パパとしては驚いたり、「どうして?」と聞き返したくなるかもしれません。
でも、その一言がママの心をギュッと締めつけてしまうこともあるんです。
ママは、心も体も限界ギリギリまでがんばった上で「完ミにしたい」と決めています。
だからこそ、まずはその気持ちを、否定せずにまるごと受け止めることが大切です。
まずは“受け止める姿勢”を大切に
ママの多くは、「母乳で育てたい」と願っていた人たちです。
授乳するママを赤ちゃんが見上げて笑う、そんな温かい光景を思い描いて、楽しみにしていた方も少なくありません。でも、現実は…
- おっぱいが痛い
- 上手く飲めなくて泣かれる
- 毎日ほとんど眠れない
- 体がボロボロなのに、休む暇がない
…と、想像以上に大変で、心も体も追い詰められてしまうことが多いんです。
そんな中で、「完ミに切り替えよう」と決断するのは、ママにとってとても勇気のいること。
だから、パパにはこう言ってもらえたらうれしいんです。
「そう思ったんだね」
「話してくれてありがとう」
「つらかったよね」
共感してもらえるだけで、ママの心はふっと軽くなります。
ママの判断を尊重し、気持ちに寄り添おう
「母乳をやめたい」という気持ちの背景には、ママ自身の中にたくさんの葛藤があります。
「私が甘えてるのかな」
「赤ちゃんに悪影響があるのでは…」
そんな不安や罪悪感でいっぱいなこともあります。
だからこそ、パパがママの決断を尊重し、「味方だよ」という姿勢を持ってくれることが、何よりも大きな支えになるのです。
家事・育児を積極的にサポートしよう
完ミにすることで、パパも授乳に参加しやすくなります。
このタイミングは、パパが育児の主役のひとりになる大チャンス!
特に、以下のようなサポートがママの負担をぐっと減らしてくれます。
- 夜のミルクやオムツ替えを交代制に
- 食事の準備や後片づけ、洗濯など家事を分担
- 上の子がいる場合は、一緒に遊んでママの“ひとり時間”を確保
- 家事代行サービスや産後ケアサービスを活用する
- おばあちゃんや地域のサポートに協力をお願いする
衣類洗濯の基本マニュアルについては、こちらをご覧ください。
「ありがとう」「頑張ったね」を言葉にしよう
ママは、昼も夜も関係なく、ずっと赤ちゃんのために授乳を続けてきました。
そのがんばりに、ぜひパパの言葉で感謝を伝えてください。

ここまで本当によくがんばったね。
ありがとう。赤ちゃんもきっと喜んでるよ。
…そんなひとことが、ママの心にじんわり響きます。
ときには、ママがピリピリして八つ当たりしてしまうこともあるかもしれません。
でもそれは、パパだからこそ甘えられる、安心できる存在だという証です。
だからこそ、パパからの優しい言葉は、ママのエネルギー源になります。
完ミを選んだママたちのリアルな声

混合授乳から完ミに切り替えたママのケース
33歳、はじめての出産を経験したママのお話です。
「母乳で育てたい」という気持ちが強く、入院中から一生懸命授乳に取り組んでいらっしゃいました。でも、赤ちゃんはなかなか上手に吸えず、母乳の量もなかなか増えません。
そのため、退院時には母乳とミルクを組み合わせる「混合授乳」という形に。
そして退院から1週間後、母乳外来に来られました。
赤ちゃんの体重を測ると…ほとんど増えていなかったんです。
その結果に、ママはショックを受けていました。
「母乳をちゃんとあげなきゃ」と思うあまり、1回の授乳に1時間ほどかけていたそうです。
その後にミルクを足すものの、赤ちゃんも疲れてしまい、飲みが悪くなる。
授乳に始まり、授乳に終わる――
やっとママが休めるのは、授乳の2時間後。
でも、1時間もしないうちにまた授乳の時間がやってくる…そんな悪循環に、ママは心も体も限界寸前でした。
泣きそうな表情で、
「母乳がいいんですよね…?」
とぽつりとこぼされたとき、私はこうお伝えしました。
「ママは十分がんばっています。赤ちゃんにも、その気持ちはちゃんと届いてますよ。
母乳をやめる必要はありませんが、無理のない範囲で、ミルクを中心にしてみませんか?」
その言葉に、ママは涙を流しながら、
「…いいんですか?」と返されました。
よく話を聞くと、義母さんからの「母乳が一番」という強いプレッシャーもあったようです。
私は、ママがどれだけ頑張ってきたかをしっかり伝えました。
そのママは、1週間後に再び母乳外来を受診されました。
そのときの表情は、前回とはまるで別人。晴れやかな笑顔が戻っていました。
「母乳は、自分の中でやり切ったと思えました。夫にも話して、完ミに切り替えたんです」
完ミにしてからは、夜にしっかり眠れるようになり、体もずいぶん楽になったそうです。
ミルクの量が目に見えてわかるので、赤ちゃんの成長にも安心感が持てるようになったとも話されていました。
最初から完ミを選んだママのケース
35歳のママは、妊娠中から自分らしいスタイルを大切にする、おしゃれな方でした。
出産後すぐに、
「私はミルクで育てます。夫にも積極的に関わってもらいたいので。」
ときっぱり話してくれました。
助産師として、母乳のメリットはもちろんよく知っています。
でも、ママがしっかり考えて出した決断。私はその選択を尊重しました。
産後、授乳は一度もせず、すぐにミルク育児を開始。
そのまま母乳の分泌も自然と落ち着き、スムーズに退院されました。
1ヶ月健診で再会したそのママは、相変わらずおしゃれで明るい雰囲気。
話を聞くと、夜間の授乳はパパやおばあちゃんが交代で担当。
ママは日中にゆとりをもって赤ちゃんのお世話ができているとのことでした。
母乳トラブルもなく、赤ちゃんも順調に体重が増えていました。
正直に言うと、母乳育児中のママは、1ヶ月健診の頃は寝不足でクタクタなことが多いんです(私自身もそうでした…)。
でも、そのママは違いました。
「余裕をもって育児ができている」
その様子を見て、私は改めて思いました。
「母乳に絶対こだわる必要って、ないよね」
もちろん、母乳育児には多くのメリットがあります。
でも、「母乳でなければいけない」わけではありません。
ママが心身ともに苦しいまま育児をすることこそ、赤ちゃんにとってもマイナスです。
- 完ミにしてから、夜間授乳をパパと分担できるようになって、気持ちがすごくラクになりました
- 飲んでくれた量が見えるから、安心できてミルクにしてよかったと思っています
- 早めに職場復帰する予定だったので、最初から完ミと決めていました
まとめ:いちばん大切なのは「家族の笑顔」
母乳かミルクか――
その選択に、たったひとつの“正解”はありません。
大切なのは、ママが自分の心と向き合って、納得して選んだ道を、パパをはじめ、家族みんなで応援していくことです。
育児は、ママひとりでがんばるものではなく、パートナーと一緒に支え合いながら進めていくもの。
パパの理解やサポートがママの安心につながり、ママの笑顔は、赤ちゃんにとっての最高の育児環境になります。
どんな育て方でもいいんです。
家族が笑顔でいられることこそが、あなたの家庭の“正解”です。
もちろん、パパ自身も無理をしないことがとても大事。
パパが疲れすぎたり、倒れてしまっては、ママも赤ちゃんも困ってしまいます。
ママの気持ちに耳を傾けながら、パパ自身の体調や気持ちも大切にして、
「どうすればいいかな?」
「一緒に考えようか」
そんな姿勢こそが、ママへの一番のサポートになります。
育児は、手探りの連続です。
ときには、専門家に相談したり、頼れるサービスを活用したりしながら、家族みんなが無理なく笑顔で過ごせる方法を見つけていきましょう。
あなたとあなたのご家族にとって、心地よい育児スタイルが見つかりますように。




